前回、病跡(パトグラフィ)は、「病気の記録」の意味であると書きました。
そうなると、「自分による病気の記録」すなわち「闘病記」も病跡学に含まれるでしょうか。
実は、この辺りは微妙なところです。
学会誌の論文として、誰かの闘病記がそのまま掲載されたことがあるかというと、今までそういったことはなかったと思います。
ある研究者が、誰かの闘病記に書かれた心理や精神状態を考察し、その人の病跡(パトグラフィ)のなかに位置付けるといったことはあったでしょう。
ところで、闘病記というと、近ごろは、自分や家族の精神疾患・精神障害体験を描いたマンガが出版されるようになりました。いわゆる「闘病記マンガ」です。
例えば、細川貂々さんの『ツレがうつになりまして。』『その後のツレがうつになりまして。』『7年目のツレがうつになりまして。』が映画にもなって有名でしょうか。
他にも、中村ユキさんの『わが家の母はビョーキです』『わが家の母はビョーキです2――家族の絆編』、田中圭一さんの『うつヌケ――うつトンネルを抜けた人たち』、吾妻ひでおさんの『失踪日記』、相原コージさんの『うつ病になってマンガが描けなくなりました』などなど、枚挙にいとまがありません。
いずれも、精神科医の想像力が及ばないような、当事者ならではの視点から「病気を持つ苦悩」と「病気からの回復への道のり」が描かれていて、とても勉強になります。
たまに、診察の時に、こうした「闘病記マンガ」に描かれる〈いかにして健康を取り戻していったのか?〉というテーマについて話し合うことがあります。
いろいろと話題が広がっていいですね。
田中伸一郎(2024.11.19)
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