まず、病跡という言葉を分解してみると、「パト・グラフィ」となり、病気の記録、病気としての記述という意味になります。
似たような言葉にみなさんご存知の伝記(バイオグラフィ)があります。主な対象は、古今東西の芸術家とか、歴史的人物とか、いわゆる「天才」ですね。
病跡(パトグラフィ)は、この伝記(バイオグラフィ)の特殊形態と考えてよいと思います。つまり、より病気に注目した伝記ということですね。
「その人は、病気があったのに、あるいは病気があったから、素晴らしい創作活動をなし遂げた。」
そのようにして、天才たちの人生の物語(ストーリー)軌跡(トラジェクトリー)を記述していきます。
かつての病跡学(パトグラフィ)は、精神科医の大御所が「天才たちを診断してみせる」という意気込みがありました。
人間の精神活動については、精神医学が解明できると信じられていた時代があったのですね。
しかし、創作活動は、時代の移り変わりとともに、どんどん変化していっています。新しい技術を使ってさまざまな革新的な創作が行われるようになり、メンタルヘルスの課題についても変わってきたように思います。
したがって、病跡(パトグラフィ)も変わっていく必要があるでしょう。単なる診断に終わらない、もっと人間の精神活動に分け入っていき、人生の物語(ストーリー)を描き直し、そこから何かを学ぶことができるようなものにしていかなくてはなりません。
これからの病跡(パトグラフィ)は、精神科医だけじゃなくて、臨床心理士・公認心理師、看護師・保健師をはじめ、メンタルヘルス・サービスに携わる人たちにもっと参加してもらい、学問的なディスカッションを始めていきたいと思っています。もちろん、当事者にも開かれているべきだと考えています。
この学問から得られた知見を、メンタルヘルスの課題の解決に活かしていけたらいいですね。
*ここでいう病気とは、精神疾患・精神障害のことです。
田中伸一郎(2024.11.16)
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